山形新聞平成10年 4月3日
実学志向前面に掲げ県立宮城大開学1年
 実学志向を掲げる宮城県立宮城大学(野田一夫学長、宮城県大和町)が開学して一年。日本初の事業構想学部や、経済的自立を目指す運営など、独自の取り組みを次々に打ち出してきた。学生の中にはベンチャーに挑む動きも生まれ、新たな大学像として注目されている。
 仙台市中心部から車で三十分、緑に囲まれた同大学は看護学部と事業構想学部の二学部制(一学年定員計二百九十人)。事業構想学部は、起業家や事業プロデューサーを育てるのが狙いで、教員の約四割を、航空や建設、流通、金融、マスコミなどの出身者が占める。
 公認会計士の天明茂教授は、「切ると血の出るような会計学を教えてほしい」という野田学長の誘いで就任した。長年、コンサルタントとして多くの会社を建て直してきた同教授は、「金もうけ以前に、経営者の姿勢や哲学の大切さを理解してほしい」と説明している。
 授業では、企業や国、自治体の収支、環境問題から見た地球全体の収支など、幅広い問題を取り上げる。
事業構想学部ベンチャーを学びサービス会社準備
 倒産した会社の社長や地雷撤去の運動家らを招き、生々しい体験談も聞いた。学生には、「収支の感覚がなくなると、事業が回らなくなると実感した」「社会運動にも収支が発生することが分かった」などと公表だ。 リポートやアンケートを通して、学生の意見を吸い上げようとしている教員も多い。元日本航空広報課長の久恒啓一教授は、「毎回のアンケートで、学生の満足度や教える側の技術力がよく分かる。今の大学は、あまりにも学生の声を聞かなさ過ぎる」と指摘している。
 昨春、成績不振と赤字にあえぐサッカーチームのブランメル仙台(ジャパンフットボールリーグ)から、久恒教授に知恵を貸してほしいとの要請があった。
 授業で募った学生二十数人によって、ベンチャーサークル「デュナミス」(ギリシャ語で「奇跡」)が発足した。そして議論を重ねた結果、チームと観客の情報共有化や、質の高いサービス提供を目指して、今年一月にインターネットのホームページを開設した。
 また、周辺住民を対象として、パソコンに関するさまざまな相談に応じるサービス提供会社を設立する準備も進んでおり、今夏には実現しそうだ。
 意欲的な学生がいる一方で、各論中心の授業や必修科目の多さに、戸惑いや負担を感じる学生も少なくないようだ。「社会経験や目的意識が希薄な学生には、資金や個別業界の話は難しい上、身近にも感じられない」と、教授の一人は指摘する。
 同大学は、目的に応じて自由に科目選択できる「総合系」を四月に新設するなど、対応策を取り始めた。試行錯誤が求められるのは、新しい大学故のこと。
 ある学生は、一年を振り返り、「伝統がない分、就職などの面でも不安を感じる。ただ、やってる中身は面白いし、結局は、何をやりたいかを自分で早く見つけて、大学を活用していくことが大切だと思う」と話した。
時事通信社配信

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