河北新報1997年8月8日
Jリーグ昇格へ僕らの知恵を
〜低迷ブランメルに助っ人現る〜
宮城大の学生が支援グループ結成

ジャパン・フットボールリーグ(JFL)のブランメル仙台の経営の立て直しとJリーグ昇格に一肌脱ごうと、宮城大(宮城県立大和町、野田一夫学長)の事業構想学部の学生達のグループ「デュナミス(ギリシャ語で奇跡の意味)」が動き出す。インターネット上にホームページを開き、市民の要望や意見を分析しながら、経営主体の「東北ハンドレッド」に直言しようという試みだ。パソコンや市場調査を駆使しながら、ボランティア組織の運動展開を実践的に学べるとあって、学生たちは意欲十分。「Jリーグ昇格はもはや・・・」との冷ややかな声もあるが、学生たちのアイデアと行動力で"奇跡"は起こるのだろうか―。(報道部・大友庸一)

地域密着を後押し
市民の声分析
経営陣に苦言、直言も

「顔と名前が一致しない」

7月13日午後、仙台市泉区の仙台スタジアムにほど近いファミリーレストランの一角は熱気に包まれていた。
「プロは客商売。伊達(だて)男に疲れ切った表情を見せられちゃあ、客はしらける」「みんなが一緒になって応援できる工夫があればいいのに」「選手の顔と名前が一致しない。ハーフタイムに選手名鑑や解説などを流したら、もっと盛り上げられる」
ブランメルが最下位の水戸ホーリーホックを1対0で辛うじて破った前期最終戦の観戦を終え、今年宮城大事業構想学部に社会人入学した力丸萌樹さん(33)を代表とする「デュナミス」のメンバーたちは興奮冷めやらぬ様子で、感想や意見をぶつけあった。
今期のブランメルは、前半戦で6勝9敗と大きく負け越し、経営状況も、累積赤字14億円と深刻化しているだけに、議論は白熱した。
力丸さんらがブランメル仙台"再建"を手助けすることになったのは、「市民の広範な支援態勢をつくりたい」と東北ハンドレッドのフロントが、久恒啓一宮城大教授(ビジネスコミュニケーション)に協力を要請したのがきっかけだ。
同大の事業構想学部は「豊かな着想を現実的な計画に生かせる人材を生み出す」ことを目標に今春設立された経緯があり、久恒教授は「ブランメル再建は宮城県民の大きな関心事で、県立大として力を貸すのは当然。学生にとっても、組織運営や広報活動の在り方を実験的に学べる絶好の機会」と快諾した。
早速学生に呼びかけたところ、看護学部の学生も含め約20人が手を挙げ、6月下旬、「デュナミス」が誕生した。

ホームページ 来月中に開設

試合観戦や数回にわたる会議で学生たちは、「地域密着」をうたいながら、ブランメルの運営に市民の声がほとんど反映されていない点に注目。「双方向の情報交換を実現することが幅広い市民の支援につながり、ブランメルを活性化させる」と分析し、活動を開始した。
学生らがまず実行するのは、市民とチームの間に太いパイプを作るための公認ホームページの開設と競技場での観客アンケート。
ホームページは、試合成績やマスコミ向け広報などブランメルに関する様々な情報をデータベース化し、チームの全容が分かるようなものを目指す。ファンの声や、選手やフロントからの返答も掲載し、9月中にも開設する予定だ。
アンケートは、戦術や選手のプレーに対する苦言も含め市民のありのままの声を吸い上げる。後半戦から実施する計画で、寄せられたファンの声を分析した上で、具体的な改善策を継続的に提案する。
外資系の電子機器メーカーの好意により、最先端のテレビ会議システムの提供を受け、後半戦からは、端末4台を東北ハンドレッドやデュナミスの部屋などに設置し、情報交換を密にしていく。

地域社会とのつながり大切

力丸さんは「大勢の市民を巻き込み、縦割りではない21世紀型のネットワークを開発したい。個々のメンバーもコンピュータ技術などの向上を目指し、燃えないといわれる東北人を熱くさせたい」と目を輝かせる。
久恒教授は「学生たちが卒業する4年後をめどにJリーグ昇格を果たせれば最高。地域社会とのつながりを持ちながら学生を育てられれば、大学にとっても意義がある」と話している。


ユニーク活動支える経歴多彩な教授陣 宮城大

今年4月に開学した宮城大は、既存の大学ではみられない多彩な経歴を持った教授陣が顔を揃える(表)。特に、事業構想学部は教授や助教授の過半が民間企業などからの転身組み。彼らがブランメル仙台"再建"のようなユニークな学生活動を支えている。
「デュナミス」の顧問を務める久恒啓一教授は、今年3月まで日本航空に勤めるサラリーマンだった。広報課長やサービス委員会事務局次長を歴任。乗客からのアンケートをもとに接遇サービス向上につなげる手法を確立した。
「社会の課題と常に向き合っていないと、我々の知識はすぐに陳腐化する。実務経験や人脈を生かし、学生とともにプロジェクトを組むのは楽しいし、勉強になる」と話す。
他大学からの転身組みも負けてはいない。大学のある大和町とタイアップして学内で年数回のコンサート開催を計画している「アートマネジメントクラブ」の顧問、小林進教授(アートマネジメント)は、関東学院女子短期大教授からの転身。企業メセナ研究の先駆者で、コンサートの後援にトヨタ自動車を引っ張ってきたのは、彼の人脈によるところが大きい。
野田学長は「基礎学問をやっているだけでは、大学の役割は十分に果たせない。教官は、教育の一環として、また社会人の1人として、知識と経験を社会活動に生かすことが大事だ」と話している。
 

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