EXE JULY 1999
大学教員、研究者の公募情報はインターネットで見つかる。
ケーススタディ: 宮城大学の場合
  そこで、一つのケースを紹介したい。2年前、東北・仙台市郊外に新設された県立宮城大学だ。 事業構想学部と看護学部からなり、日本の大学では前例のないほど、多彩な経歴を持った教授陣が顔を揃えている。
  特に事業構想学部は、各種事業の企画・開発に関する知識や技術を体系的に学ぶ日本発の学部で、教授、助教授の半数は民間企業からの転身組だ。
  設立の立役者である野田一夫学長は、多摩大学学長時代から、日本の大学改革から必要性を唱え、独自の大学運営論をもとに「理想の大学づくり」を進めてきた実力者。
  仙台駅からタクシーで向かうと、やがて、長閑な田園風景が一転し、未来都市に迷い込んだような錯覚にとらわれる。大手ディベロッパーが緑豊かな広大な土地に、研究施設や文化・スポーツ施設を配し、21世紀型の都市を目指して開発中の泉パークタウンだ。その一角に位置する宮城大学を訪ねたのは、さまざまな意味で、日本の大学の一つの近未来像を示していると思われたからだ。
 民間出身の教授の一人、久恒啓一先生に会った。前は日本航空の社員。広報課長やサービス委員会事務局次長を務めながら、本業とは別に個人的に「知識生産の技術」研究会(通称=知研)にも属していた。知研は梅棹忠夫氏の名著『知的生産の技術』に触発されたビジネスマンやOLたちのグループ。研究会やセミナー、出版などの活動を続けるなかで、久恒先生は、さまざまな情報を図解で伝える「図解コミュニケーション」の独自の手法を編み出し、著書も何冊か出版した。
  この著書が野田学長の目に留まり、「大学の先生に」と勧められた。しかし、自分のやってきたことが大学教員になるための「研究業績」と認められるかどうか。新設の場合、大学の準備委員会による審査に加え、文部省の審査がある。知り合いの大学教授などの反応は「ムリだ」。
  しかし、見事パスしてしまった。「野田先生が言うには、文部省はどんどん民間人を登用する流れにあり、そんなに頭はカタくないんだそうです。これに対し、大学の先生たちのほうで、文部省はこんなの認めるわけないと自主規制してしまっているのが、日本の大学の現状のようです」(久恒先生)
  「研究業績」として認められるかどうかは、どんな科目を担当するかによる。久恒先生の場合、「自己表現」という、これまでなかったまったく新しい科目で申請した。「『自己表現』なら図解もコミュニケーションも入りますから、業績と認められるわけです。日本人は自己表現が弱いですから、時代のニーズに合致していました」 久恒先生は、日航のサービス委員会時代、顧客アンケートを定性的に分析してCS向上に結びつける手法を確立。これが授業の進め方や、県の委員として行政サービス向上を実現させていくうえで、大いに役立っているという。
  「大切なのは、自分なりの業績を仕事の中でつくっておくことです、そして、大きな仕事をしたら、何らかの形で発表できるようにまとめておく。職歴ではなく、仕事歴をきちんと残していく。仕事で超一流と認められる人が、大学の教員としても認められていくのだと思います」
 

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