キャリア開発史

アングル―――時代

アトランタ線
 現代は日米経済摩擦の時代といわれているが、誤解にもとづく摩擦も多い。
 さて、全日空はアメリカ本土進出の拠点として首都ワシントンを選択した。ワシントンで、ジャンボ11機(二、四〇〇億円)の契約に調印したあと、同社の中村社長は日本で記者会見を行い、「米側に貿易摩擦解消を強く印象づけた」と語った。時代のテーマを念頭においた発言である。
 この時期、全日空はワシントン便開設を決定したが、「ワシントンの空気だけで日米関係が良いの悪いのと言うのは、早計じゃないかと思います」(故牛場駐アメリカ大使)という言葉はこの摩擦論議に多くの示唆を含んでいる。
日米関係を考えてみると、われわれ日本人のアメリカ観はニューヨークを中心とする東部東海岸、五大湖を背景に持つシカゴを中心とする北部、そしてロサンゼルス、サンフランシスコに代表される西海岸から流れてくる情報によって形づくられてきている。ここでさらに政治情勢の震源地ワシントンの情報をマスコミを通じて増幅して流すということは、わが国の世論がアメリカの政府・議会の動向に過剰に反応するということになる。
 そのように考えた場合、多様で活力に富むアメリカにおいて新しいイメージで台頭しつつある"南部"にわが社が進出することは、バランスの取れたアメリカ観を形成する上で極めて重要である。また、アメリカにとっても、正しい日本像の理解に大いに役立つはずである。わが社の航空路線の拡張は人、物、金、そして情報や世界観の交流の上で、大きな影響を与えるものであり、われわれは自信を持ってアトランタ線開設の意義を主張すべきである。

ヨーロッパ直行便
 「12時間でヨーロッパに行けます」という説明には時代感覚が欠如している。それは日本にとって、欧米等距離時代の幕開けである。
 時代は今や共通の価値観を持ち、同レベルの生活を営む均質化された6・8億人の人々と、市場が日、米、欧に存在するという段階に入っている。先日のテレビで一代の風雲児CNNのテッドターナーが答えていた「アメリカンドリーム?それは良い暮らしをすることさ。日本と同じだよ」という言葉に端的に集約されている。
 人口2・4億、GNP4兆ドル、そして中南米を後背地に持つアメリカ、人口3・2憶、GNP3・2兆ドル、そして中東・アフリカに影響力を持つヨーロッパ、人口1・2億、GNP二兆ドル、そして東南アジアという市場を抱える日本、この9・2兆ドルの実力を持つ三大圏の競争と強調の中でしか、日本の生きる道はないのである。
 ECの主要国の首都であり、ヨーロッパの両岸とも言うべきロンドン・パリ直行ルートをひらいた意味は、いくら強調してもし過ぎることはない。
この直行便の開設によって日米欧の三角関係も変化した。日米間は西海岸まで10時間、東海岸14時間で平均12時間。日欧間は、同じく12時間。そして米欧間は、東海岸と西海岸からよヨーロッパへの時間を平均すると10時間半となっており、この三極は今やほぼ時間距離で正三角形になっている。日欧直行便により、米欧、日米の太いパイプに加え、日欧も同様に深い絆で結ばれる事で自由世界の安定度は更に増すことになる。

オーストラリア新路線
 環太平洋構想、太平洋経済文化圏構想などにみられる如く、太平洋の時代になりつつある。この中の大陸国家、米・中・豪は、いずれも幾つもの州・地域からなる集合国家である。
 今年度、日本航空は豪州の東海岸のケアンズ、ブリスベン、西海岸のパースに新路線を開設した。米・中に続き、豪州との間でもようやく多面的な交流が促進されるわけで、環太平洋諸地域の交流史上、開設の意義は大きい。

時代とともに
 昭和61年度の海外新路線をみると、日米経済摩擦時代にアトランタ線、日米欧三極時代にヨーロッパ直行便、環太平洋時代に豪州新路線と、わが社の動きはまさに「時代」と大きく関わっている。時代と国益を睨みつつ戦略を進め、分かりやすい形のメッセージにして消費者に発信することが重要である。企業の利益のみを主張しても支持は得られない。国益を踏まえた「時代」という観点からわれわれの活動を意味づける作業にさらに力を注ぐべきである。「世界を結ぶ日本の翼」から「時代とともに歩む日本航空」へと脱皮する時期であろう。

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