私の伊勢物語
 
私の伊勢物語

 「伊勢物語」は、和歌を中心とした一二五段のきわめて短い物語から成り立っている。にもかかわらず質的にみると「源氏物語」にも勝るとも劣らぬと言ってよいほど面白い物語の集まりとなっている。
 平安時代の初期は、中国文化の圧倒的な影響を受け漢詩が中心となっていた為、和歌は閉め出されていた。しかし、和歌は女の心を射止めるための武器として、貴族たちの公でない場で、したたかに生きていたのである。
 「伊勢物語」のモデルといわれている在原業平は「スタイル容貌は抜群だが、行動は勝手気まま、官人に必要な漢学はないが、和歌を作る事にはすぐれていた」と書かれてある。
 「伊勢物語」はある男の「初冠(元服)の物語から始まり、最後は辞世の歌
   ついにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとはおもはざりしを
で終わっている。
 物語の中には、自分を亡ぼしても悔いのない激しい恋があるかと思うと、初々しい思いもある。悲恋、失恋、成就した恋、片思いなどさまざまな恋愛感情だけ でなく、親子の情、主従の信、友情の美しさ、老女へのいたわりなどなど、美しい貴石、宝石の連なるネックレスのような物語の集まりとなっている。そこには 人間の真実の美しさがあり、すぐれた和歌の世界を通して、思いがけない現実味を帯びていて、虚構の中に人間の心の真実を見事につむぎ出しているのである。 以下私の好みによって段を選んで書いてみた。