山陽新聞 99年6月6日
大学も「授業崩壊」
倉敷で大学教育学会
 大学教育の在り方を考える「大学教育学会第二十一回大会」が五日、倉敷市連島町西之浦の倉敷芸科学大を会場に二日間の日程で始まった。初日は、十八歳人口の減少や多様化する入試制度の影響など大学を取り巻く環境が大きく様変わりする中、「大学教育改革」をテーマに教養教育など大学の抱える諸問題について活発な論議を展開。学生の基礎学力低下に伴う「授業崩壊」が深刻になっている実態や、学生の”やる気”を生み出すため図解教育を導入するなど苦悩している姿が浮き彫りにされた。
  昭和薬科大の林一教授は医薬系学部での基礎学力の低下と詰め込み型の教育の弊害を指摘。人命を預かる医療人として社会に出た後、深刻な事態を招きかねない、と警告した。 林教授は担当する物理学を例に挙げ「六割の学生が高校で履修しておらず、授業の大半は高校物理の補習や基礎学習に費やす」「一年生の授業は一階からではなく、地下室から始まる。一年間では中二階に上げるのが精いっぱい」と、理系学部に共通する悩みを打ち明けた。
基礎学力低下に警鐘
 また、国家試験のための過密な授業が「学生から入学時の夢を奪い、社会性を欠いた人間に育ってしまう」と指摘。医療人として不可欠な人間性やコミュニケーション能力を奪う人文社会科目がおろそかになっている現状にくぎをさした。
  大阪電気通信大の石桁正士情報工学部長は、学生の授業に対する「やる気」と「満足度」との関連について調査結果を報告。「グループ討論や、学生が教師を務める『ミニ授業』ではやる気が高くなる」と授業の工夫の必要性を強調した。
自分の考えや知識を体系的に整理して図にまとめる「図解教育」の実践事例は、宮城大の久恒啓一教授が発表した。同教育は、書くことはもちろん読むことにも抵抗感が強い”文章コンプレックス”のある学生が多いことから試みた。一つの知識情報を図解するには、思考力、判断力、表現力が必要で、こうした力を鍛える教育実践。
 新聞の社説や記事内容を図で表現させる「情報表現論」(自己表現教育)での二年間の取り組みを紹介。「図を練って書くことで、モノを表現していく楽しさが芽生え、授業を取った約五百人の学生は、文章コンプレックスも次第に解消されつつある」という。学生の表現力育成が課題になっている教養教育担当者の注目を集めた。  久恒教授は、「新しい知識伝達の手段。教養教育の現場ではもちろん、あらゆる分野に応用可能」とした。
 

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