99年7月24日
パソコンソフトを作った大学教授と塾経営者
 自分史の大きなうねりは東北から生まれるからも知れない。そんな予感がある。昨年の第一回自分史大賞受賞作品「ああ、名産笹かまぼこ」は仙台在住の星川滉一氏の作品であったし、宮城大学では知的生産技術を向上させる一環として自分史をまとめる教育が試みられている。そこから自分史作成ソフトがこの春、誕生した。この宮城大学を中心とした自分史への取り組みを三回にわたってお伝えする。 出会いは九八年夏  自分史作成ソフト「自分伝説」(九八〇〇円 ウインドウズ95・98対応 発売元・能開生涯学習研究所пZ二二・二七五・六四〇一)が誕生した背景には、日本航空から宮城大学事業構想学部の教授へと転身した久恒啓一教授と、長年に渡り地元で文章指導にあたってきた塾経営者、沼田芳夫氏(能開生涯学習研究所所長)の出会いがあった。二五年以上にわたって小中学生を対象に文章指導を続けてきた沼田氏は、パソコンが持つ素材蓄積や検索の力を文章作成に生かした「デジタルライティング」のノウハウを集め、作文創作支援ソフト「自分物語」を作る。文章の中身となる素材を集め、それに肉付け、書こうしながら一つの文章に仕上げていくのであるが、この作業を使って効率化しようというのだ。  ソフトの件を、一九九八年の夏、野田一夫・宮城大学学長に紹介したところ「ウチの大学に知的生産技術向上の一環として自分史を授業に取り入れている先生がいる」と紹介されたのが久恒教授だった。結果的に沼田氏のアイディアに、久恒教授の授業経験や知的生産理論を加味して「自分傳説」が完成し、九九年四月に全国発売となる。
自分史は人生の事業構想  
ソフトでは主人公のキャラクターがリードする形で自分史がまとめられていく。誕生から六〇歳代まで、人生の各ステージ毎に「名前の由来は」とか、「影響を受けた人はいますか」などの事前に用意された質問に答えていき、そこにエピソードを編集して、ガイドに従ってタイトルをつけていく。  ソフト開発は半年でスムーズに終了したという。それは二人の自分史に関しての考え方が一致していたからだ。「自分史を書くことはこれからの人生戦略を描く、人生の事業構想にほかならない」というものだ。  久恒教授は「学歴ではなく、その人の生き方が問われる時代が来ています。学生たちが二十年足らずの短い時間とはいえ自分史を書くのは、現在の自分をつかまえ、次にどうしていくべきかを考える大きなきっかけになるからです」と話す。そして沼田氏は「自ら情報を発信する意思を持って書くことが自分史を自慢史に終わらせないポイントです」という。  では「自分傳説」に盛り込まれた知的生産の技術とはどのようなものか。次回は、その手法を紹介しよう。(以下次号)
週刊ダイヤモンド

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