1991年6月14日(金)
サラリーマン市民の視点で 整備士は飛行機博士
 「飛行機はなぜ飛ぶの」。
 6年前にメカブラザーズが子供の疑問に答えていこう、と活動を始めて最初に来たのがこの質問だった。「やっぱり」。予想はしていたが、つたない字で書かれたはがきを目の前にすると、みんなどう答えたらいいものか戸惑った。
 子供の疑問に答えることは二重の意味で難しい。1つは質問が素朴であるがゆえの難しさ。「飛行機にはいくつスイッチが付いてますか」。そんな質問に即座に答えられる人はベテランの整備士にもいない。もう1つは分かりやすく解説することの難しさ。「なぜ飛ぶか」を本格的に答えようとすれば論文ができあがってしまう。
 「みんな慣れない文章を書くのに四苦八苦。でも仲間はどんどん増えています」。羽田工場生産技術部課長補佐の佐藤貢さん(36)は中心メンバーの1人。「科学する心」を育てたいと願っている。
 整備の仕事は客との接点がない。縁の下の力持ちだが、完ぺきで当たり前。ミスしたらたたかれるつらい立場だ。仕事は機械相手。1日中工場で過ごす。「サービス業で働く実感がないよな」。飲み屋でグチるそんな言葉が活動の出発点だった。
 「ヒコーキのことなら何でもどうぞ」。知り合いのスチュワーデスに頼み、まずは手書きのはがきを機内で配ってもらった。1週間もすると次々と質問が届いた。今では子供向けの機内紙に返信用のはがきを挟んでいる。1ヶ月に届くはがきは100枚近く。
 時には「ひこうきのおばさんげんきですか」という5歳の子からのかわいいはがきもまい込む。おそらくは生まれて初めて書いた手紙だろう。これにもちゃんと答えなくてはいけない。「はい。みんな元気にがんばってますよ」。
 1、2週間以内に返事を出すようにしているが、何しろ難問だらけだ。運輸省や米・ボーイング社まで問い合わせ「へえ、そうだったのか」と逆に感心したり、新たな疑問がわいたりと、こちらが勉強することも多い。
 活動を通じて社内のコミュニケーションも広がった。客室乗務員向けの社内報には「メカブラなるほどコーナー」というページがある。機内で子供たちにあれこれ聞かれた時役立つようにと基礎的な知識を紹介している。逆に客室乗員部にはパイロットやスチュワーデスに関する質問にすぐ対応できるよう、メカブラ向けの窓口がある。
 今では年間百数十万円の予算も出るようになった。航空教室のようなイベントにもどんどん参加していく予定だ。「飛行機に興味を持ってくれるのがうれしいんですよね。我々も昔そうでしたから」と佐藤さん。みんな「子供の好奇心」をいつまでも忘れない大人たちだ。
日本経済新聞

BACK