| サラリーマン市民の視点で ハイクは世界共通語 |
1､2､3､4､5－－。小さな指を折りながら、子供たちが画用紙に向かっている。目の前には瀬戸内の美しい自然が広がる。野村佳子さん(32)はその傍らで、子供たちの姿をじっと見つめていた。
野村さんが長期業務研修で大阪支店から日航財団に来たのは昨年5月。世界の子供たちに俳句の輪を広げるのが今の仕事だ。昨年8月には、大阪で開かれた｢国際花と緑の博覧会｣で｢世界こどもハイクコンテスト'90｣を開催。世界各国に参加を呼び掛けた結果、寄せられた俳句は6万句。26カ国、19カ国語を数えた。
入賞者のうち海外から17人、国内から14人を招待、瀬戸内海に浮かぶ生口島で3泊4日のキャンプ生活をともにした。
魚釣り、ハイキング、流しそうめんに灯籠(とうろう)流し……。タイの王女やカナダインディアンの少年も参加しての共同生活の中で、子供たちはすっかり打ち解けていった。そしてその合間に、思い思いの俳句が生まれた。
もみじの葉 泳げば魚 飛べば鳥(11歳・日本)
森の花はつむな 森のにおいだけ もって帰れ(11歳・ソ連)
季語はなくてもいいが、自然を詠み込まなくてはいけない。外国語の場合も5・7・5の音節から成る3行詩が条件。子供たちは大人が考えるほど、この制約を苦にしない。
｢自然を詠むことは自然をしっかり見つめること。子供たちの視線に触れ、ふだん気にも留めなかった周りの自然が、思いのほか美しいことにハッとさせられることがあります｣
野村さんは、俳句を通じ地球環境を大切にする心が養われるのではないかと思っている。環境保護の必要性を理屈で説くことも大事だろう。だが自然のかけがえのなさを肌で感じることは、その｢理屈｣を支えていくことにもなる。
最終日、花博会場での発表会。俳句に合わせて描いた絵を披露しながら、自ら作品を朗読した。同じ響きが場内を包む。俳句は文学よりも音楽に近いかもしれない。
日航が俳句の普及活動を始めたのは1964年にまでさかのぼる。東京オリンピックを記念して行った全米ハイクコンテストが好評で、以後数々のコンテストを世界各地で開いてきた。今では米、英、豪の教科書にも載るほどまでに普及し、｢ハイク｣は世界共通語になりつつある。
子供のころ、自然に触れ俳句に親しんだという記憶は、これから受験競争などの荒波にもまれる中で、あるいは頭の隅に追いやられるかもしれない。だがいつか、自分も子供を持つ年齢になった時、失われていく自然を目の当たりにした時、きっとよみがえるに違いない。野村さんはそう信じている。 |
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