仕事に追われ、自分を見失いがちなビジネスマンは、ある時ふと、「いったい自分は何のために生き、何をしてきたのだろう」と考える。多忙を極めている人ほど、自らの来し方行く末に思いをめぐらすことが多いだろう。
現在、自分史作成がブームとなっているが、それは単なる懐古趣味や自己満足とは一線を画したものであるようだ。過去の経験や実績を振り返りつつも、それらに甘んじることなく、これからの仕事や人生のためのエネルギーを発掘しようとして、多くの人は自分史を編もうとするのである。
本書は毎年300万冊の発行部数を誇る能率手帳を元にして、自分史を作成するための指南書である。ビジネス自分史だからと言って大上段に構えるのではなくて、過去の手帳に記された情報を整理することから始めよう、というわけであり、大学で「情報表現論」や「プレゼンテーションの技術」などの講座を受け持つ著者ならではの数々の工夫が凝らされている。
具体的にはキャリア年表、キャリアレコード、キャリアメモ、自分像、キャリア未来ビジョンの5つのシートに記入していけば、知らず知らずのうちに自分史が完成されていくという次第で、これならば、文章を書くのは苦手という人でも気軽にまとめることができるだろう。
また第5章では、実際にこの方式で自分史を書いた人々の実例が4ケース取り上げられており、それぞれに個性的、多彩で興味深い。
余談だが、公正取引委員会が刑事事犯の調査でオフィスなどに乗り込む際には、各種書類や資料とともに関係者の手帳も押収し、それを徹底的に解明するという。手帳こそがあらゆる情報の宝庫であり、重要な証拠となるからである。もちろんこんなこと読者諸兄諸姉には関係ないだろうが、能率手帳に限らず、古い手帳を引っ張り出してみて、そこに記された事柄から、往年の記憶が走馬灯のようによみがえるならば、本書を読みながら一度、ビジネス自分史に挑戦してみたらいかがだろうか。
(日本能率協会マネジメントセンター・1,600円)
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