2000.8.7
白書を読む 第1部 15分でわかる図解・経済白書
自立的回復の芽生えが見られる日本経済

 景気は本格的な回復軌道に乗ったといえる状況にはないものの、自律的回復 への移行過程にある。
「消費」は消費マインドは持ち直しつつあるものの可処分所得は減少してお り、回復テンポは遅く総じて横ばい状況にある。また「アジア経済」の急速 な回復等を受けた形で輸出入が増加するという好循環が見られている。 これをうけて、在庫調整が完了した鉱工業生産は緩やかに増加し、第三次産 業も運輸・通信、金融・保険の伸びが高くなるなど、全体に緩やかに増加を している。
 ここにいたる状況を細かく展望する。
 まず「公共投資」は景気の下支えを果たしているが、民間では「設備投資」 に持ち直しの動きが明確に現れてきている。製造業ではITの好調を受けた 電気機械の持ち直しもあり減少幅が縮小しており、非製造業においてもサー ビス業や通信の持ち直しもあって前年比増となっている。住宅は99年前半 の持ち家、後半のマンションの好調で景気の下支えの役割を果たした。
「金融」では不良債権については透明で適切な処理が行われており、大手銀 行に関しては峠を越えた。
「企業収益」は2000年3月期決算をみると、大幅増益を果たしており 97年1−3月期の前回の景気の山をすでに越えている。回復パターンをみ ると売り上げ高の回復が遅れる中、人件費・変動費を抑制して利益を捻出す るという増収なき増益のパターンとなっている。
 景気回復の足かせとなっていた設備・雇用・債務の3つの過剰については、 改善がうかがえる。特に雇用についてみると、完全失業率が4.9%という 最高値を記録した後やや改善をしているものの、依然高水準で推移している など、雇用・賃金の調整が進行中である。雇用者数は常用雇用や中小企業が 減少傾向にあり、臨時・日雇い、大企業に増加がみられるが全体としては減 少が続いている。雇用は総じて依然厳しい。

自律的回復のシナリオ

 99年4月の景気の谷を脱した後、2000年6月現在日本経済は自律回 復への移行過程にある。設備投資の持ち直しなど前向きの動きが出てきてお り、家計部門への波及が始まりつつある段階である。2000年度の政府見 通しは1%成長であるが、これを達成するための戦略的政策課題をあげると、 IT革命、循環形成、介護ビジネス・高齢者と女性の能力発揮である。
 景気の自律的回復の動きを加速させるためのポイントをあげてみよう。
 まず好調を維持するアメリカは、不透明感はあるものの財政金融政策にか なりの余地がある。また回復の著しいアジアは情報関連材の需要が強く当面 は堅調が期待できる。
 今回はリストラを伴う回復であることから、収益を債務の返済にあてるこ とが優先されていることもあり、今後の回復は緩やかであると考えられる。
 さらに鉱工業生産、設備投資がIT中心に増加するなどITの影響を受け た回復であることから、急激な回復や将来の供給過剰もない。
 最後に景気回復の動きを強いものにするためには、適切な金融政策、機動 的な運営など景気の下支え政策が果たす役割も大きい。

新技術と日本経済

 情報・通信技術の革新である「IT」は蒸気機関、電力、自動車に匹敵す る影響を及ぼすことが明らかになりつつある。その特性は、横断的側面があ ること、価格低下をもたらすこと、スピードが要求されること、消費者参加 型・ネットワーク型消費の拡大をもたらすことなどである。
 ITの影響は広範に及ぶ。供給面では生産性の向上に寄与するし、需要面 では生活用様式の変化をもたらす。雇用面では労働需要の構造変化を招来し つつあるし、金融面では功罪ともに大きな影響を与えつつある。
 この波を乗り切るためには、創造と行動力のある人材が求められる。知恵 の時代に適応するために多様な人材を生み出すために、学校教育、企業内訓 練、社会人教育・生涯学習などの変革が必要であり、そういった人材を受け 入れる多様な労働市場の整備が求められる。
 また組織についても変革が求められる。生産工程をまるまる代替したロボッ トと異なり、ITは情報生産工程の一部を代替するものであること、そして 人間関係の技術であることから、組織・人事・権限の見直しなどが必要であ る。またコストの削減、外注化、ニーズ対応など企業関係も変革を迫られる。IT革命が進むと分権化と集権化も同時に起こってくる可能性があるなど、 組織も大きく変貌を遂げる必要がでてくる。
 IT革命がもたらす新しい時代の経済のイメージは、従来の資本・労働に加 え技術や知識が重要となってくる社会であり、先行者が安泰であるとは限ら ない社会である。そこでは景気循環が平準化されるか、あるいは景気変動が 拡大するかは今のところ不明である。
 そういった社会・経済の成立のためには、知的競争のルールをつくっていく とともに、適切な各種の経済政策の運営が重要である。

持続的発展のための公的部門のあり方

 21世紀に向けた公的部門の課題は、公共サービスの持続可能性、ニーズ に沿った公共サービスの提供方法、経済活力の維持である。
 日本の財政赤字はの現状をみると、91年度から98年度にかけて中央・ 地方の税収は18兆円の減収、支出は22.4兆円の増加で、43兆円の赤 字超過となっている。2000年度予算では公債依存度は38.4%となっ てしまった。不況対策としての構造赤字が累積されつつある。
 公債残高累増、世代間負担格差、経済への影響などをみるとこの財政赤字 の現状は持続可能性を満たしているとはいえない。
 財政再建のためには、景気の自律的回復がはっきりしてから財政再建を行 うという順序や、招来の効率的な政府の姿がわかるような形を示すという内 容が重要である。

週刊エコノミスト

BACK