シュールロマンチスト宣言
多忙なはつらつとした明るく輝く様な俺達の生活の中に、突如訪れるあの無気味な無限の暗闇と、ゾッとするような沈黙の響き。
不規則な波調でもって、唐突にしかも強引に日々の生活の中にしのびよる空間。
ほんの昨日まで、俺達の論理が真理であり、俺達の主観が世界であったのに………。
だが今、俺達は感じる。底知れぬ沈黙の深淵、全てが無意味な響きを持つ死の谷間、色彩のない透明な暗闇を。
淋しさというにはあまりに重く、孤独というにはあまりに深く………。
人間の全存在を、根こそぎゆるがし、なぎたおし、抹殺するあの深淵の悪魔。
いわゆる人格者の表層的な懐柔の言葉や、安易な解決を嘲笑し、無視し、そして厳存するもの。 軽薄な詩人の使う孤独とか空しさとか、そんなものでは、その一部をも真に表し得ないもの。
友達との友情だとか、女性への思慕によって決して消滅することのないであろうあの無限の底なしの空間。
俺達があの冬の大山で遭遇した
夜空にまばたく無数の星の明りが、一面に降り積った白い雪の面で反射し、俺達の心に郷愁を生じさせずにはいられないようなあの夜も。
降り積む雪を一歩一歩踏み固めながら、あのサクッサクッという心地よい、半ば力強い音を、俺達が自虐的な快感を持って聞くとしても。
うす明るくともったランプの下で、一人一人が各自の想いにふけりながら、それでいて全体としてはもの悲しいほどの調和を保ちつつ歌うとしても。
それがロマンであり、それが安らぎであるなどと俺達は言わない。それがあの恐ろしい無の闇を背後に背負う一時の刹那的な感情であり、全ては幻であるということを誰にも否定させはしない。
俺達は行くだろう。
末来とか青春とか書かれた錦の旗を持って、限りなき大海原の果つるところまで。若く力強く黒い墨で書かれたその字面が、きっと色あせカ無く老いてゆくのを知りながら。
空と海が一つの線になって連なるあの遠い遠い国に、何もないということを知りつつも、やはり何かがあるに違いないという甘い幻想を抱きつつ。
俺達は愛するだろう。 あでやかに咲きほこる明日のために、ひっそりと庭の隅に咲く若いつぼみの様な娘達を。豊かな果汁を含む新鮮なレモンを想わせるういういしい乙女らを。
若いつぼみが花咲きやがて枯れ果ててしまうのを知りながら。レモンの乙女がその光る果汁を失うのを知りながら。
俺達は想うだろう。 行動の終結が無であり、死が生の極点であるというあのニヒリスティックな安堵と、それなるが故に持つロマンとを。
俺達は信じるだろう。 仮想であるが故に正しく、虚構であるが故に現実的で、現実的であるが故に美しく、保守的であるが故に進歩的であるというパラドックスを。
愛という言葉の氾濫が、愛が現実的には育ち得ぬ不毛の原野に俺達がいるということを証明する。
ロマンという言葉が、ロマンのない人間達の間で使われているということを知らないほどバカではないから、その言葉が俺達の心から、ますます遠ざかって行く。
この世が終る時、俺達は知るだろう。 めくりめく官能の嵐も、はなばなしい斗いも、全てが彩かに、一瞬にして色あせ、俺達の生とともに、又あの暗く深い淵の底へ音もなくただ落ちてゆくのを。
だが、俺達は耐えねばなるまい。
様々な虚飾でもって語られる言葉の羅列と、良心を殺し去る、あのもっともらしい論理によって。
真実の弱さの裏返しである、あの強さによって。
ペシミズムの逆説的表現である、あのオプチミズムによって。
あたかも、夜空にきらめく無数の星の輝きが、強烈な光輝を放つ太陽の出現とともに、たちまち無限の彼方へ没し去られるように、夢だとか理想だとかロマンだとかいう、あの絶対者の前では、たちまち色あせてしまう空虚な言葉を、それが故になお一層強調することによって。
― 終 ―
(法学部2年)(スキー合宿報告)