キャリア開発史

アングル―――熟練

代理店の繁栄
 JTB、日通、電通、プロダクション、シンクタンク、コンサルタント。いま、最も力をつけつつある企業の一群だが、これらの企業の共通項は「代理」業を営むことである。曰く、旅行代理店、貨物代理店、広告代理店、編集代理店、調査・企画代理店。旅行業界におけるJTB、運輸業界における日通、宣伝業界における電博、放送業界におけるプロダクション、官公庁業界におけるシンクタンクやコンサルタントなど。
 これらの企業は元来請負業であったはずだが、いつの間にか時代を代表したり、コーディネーターとなって時代を演出するという動きをしている。一つには、彼らは動きの速い時代の流れを十分に感得できる現場を持っているからだ。旅行者、消費者、企業、視聴者、需要というさまざまな名前の現場と直接につながっている。たとえば広告代理店の発言権の増大は、広告制作、イベント企画の受託の過程で企画のノウハウや知恵を蓄積してきたことによるものである。委託をした当の企業は発注産業化し徐々に企画力や選択眼が衰えてくるのに対し、代理店業界は人材を育てつつあるのが現状である。
 一方、第二次産業においても、重厚長大の大メーカーのホワイトカラーは外部に対し仕様書を書き、発注を行い、本工は下請け企業から納入されたパーツの組み立て、試運転、調整といった仕事に携わっているのが現実という。実務の核心はすでに下請け企業に移行している。ここでも同様の流れがある。
ひるがえって当社の旅客・貨物という営業分野について考えてみると、代理店を通して間接的にしか消費者とつながっていない。この点が弱みとなりつつあるのではないか。

変化と異常
 西武セゾンの総帥、堤清二は言う。「マーケットには変化がいっぱい。小さな、なんでもないような変化の重要性を読みとることが経営だ」
 一方、日本の工業力の強さは現場における小さな変化や細かな異常に気付き、対応し、改善することが現場でできるからだと言われている。表面にあらわれた現象の原因を推理し処置するという能力が現場にあるからである。
どうやら、工場という現場の強さとサービス業の優良企業の経営の強さは同じものであるらしい。
立花隆の名著「宇宙からの帰還」を読むと、アポロ宇宙船の事故に触れ、「設計にあたる上級技術者の技術力は申し分なくても、現場の製造段階での技術がズサンで、品質管理が伴っていなかったではないだろうか」と述べている。つまり、システムや技術という高度な分野と、それを具体化する現場のモラルや技能とは別のものである。この現場の足腰の強さがポイントであろう。

熟練の伝承
 長寿と出世率の低下による高齢化社会を控え、当社も定年延長と採用減により高齢化社会への道を歩みつつある。内外ともに厳しい環境下にある当社であるが、克服すべき課題の達成のためには様々な方法が考えられる。代理業の活用も一つの方法であろう。
 しかしながら、この代理店業自体も、卸問屋、商社化し現場との接点はそのまた下請け会社に委託し、現場から離れつつあり、したがって創造力も枯渇しつつある。この空洞化には注目する必要がある。
 先に述べたように外部の知恵・人脈の活用は有益であるが、安易な借りぐせは弊害も大きいことを忘れてはならない。知恵や情報という付加価値は消費者との接点で生まれるのである。そういう現場の熟練の形成、維持・伝承という観点から、どの仕事を残すことが競争力を温存することになるのかを慎重に吟味すべきであろう。
 もう一つは外部に任せた仕事についてである。任せられた企業の人材の質が任せた企業の盛衰のカギを握っているのであり、先方企業における人の採用や育成の方法についても注意を払うべきであろう。また現場に密着した情報の吸い上げシステムの構築も大切だ。
 労働集約型産業である"サービス業"の一員である当社も、従来の強み・弱みを踏まえた新しい企業像を模索すべき時期に来ている。情報集約型企業への脱皮もその一案であろう。

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