キャリア開発史

アングル―――情報フロンティアの開拓

商品情報の社内流通
 変化の時代である。
 伊東前関連事業本部長は日航グループの連帯に触れ、グループ誌「あおぞら」誌上で、「強固な連帯で結ばれた企業集団。内には一体感、連帯感の確立、外には企業集団のアイデンティティの確立」と述べている。
さて、その現実である。「日航グループの社員は日航グループの商品知識が乏しい」「国内線のスチュワーデスは日航ジェットプランに詳しくない」「セールスマンは機内サービスの知識が不足である」
 この原因は情報の流通のしくみにある。社内、グループ内への商品情報の提供がうまく機能していないのだ。日航内部の互いの仕事、方針、商品に関する知識や、情報の交流の希薄さは商売上に多大の影響を与えている。まず商品情報を社内、グループ内に流すことを考えなければならない。

情報のなる企業
 情報の時代である。企業社会は、今、新たな地平に到達している。それは情報ネットワークによる衝撃の時代である。
 さて、当社の情報システムである。たとえば身近なOAを見よ。ワープロ、パソコンなどのメーカーや機種の統一性のなさ、無秩序さを見ると、転勤を全くの考慮外においたシステムと言わざるを得ない。キャノンのワープロをやっと使えるようになった人も、職場の変更によって新たに富士通のワープロのシステムに取り組まねばならない。
このように、身のまわりの情報の処理技術、情報システムがおろそかになっているのではないか。グループ内の情報交換システムの構築は急務であろう。企業内情報、グループ内情報の総合化、つまり現有の情報を整理し共有することで、商品の品質が高まると同時にグループ内の一体感が生まれるのである。これがまず第一歩である。
また総合商品としての旅に関するデータベースと顧客データベースの構築によって、外に対して情報の網羅性、総合性を提示できることで、競争力は飛躍的に高められる。当社は輸送という手段を持っているが、これは換言すればヒトの移動、情報の交流についての知識に長じているということだ。当社は金のなる木ならぬ「情報のなる企業」なのである。
 当社の経営資源として、ヒト、モノ、カネに加えて情報の質と量を再吟味すべきであろう。旅行者の情報に対するニーズの多様化、高度化が進むなかで、情報の集積地、発信源としての当社の優位性、役割を正しく評価すべきである。

多業界化戦略の展開
 合従連衡の時代である。
 商品開発、事業開発に携わるヒトには視野の広さ、視座の高さが求められる。つまり世の中の動きに敏感であることが必要なのだ。社業を推進するなかから、企画、マスコミ、官庁、市民、消費者などから吸収し続けることができるかがポイントとなろう。その上で、他企業とのジョイント戦略に積極的になるべきである。自分の弱点を補うために異業種と組むことで、可能性は大きく開ける。特に同一のセグメントを顧客に持つ異業種との提携は有用だ。これにより世間を知り、力をつけることができる。
 経営の多様化が論じられているが、それだけでは不十分である。企業の発展は顧客の拡大と業種の拡大につきる。この業種の拡大を安易に多角化と呼んでいるが、多くの業種と接点を持つということであるから、むしろ多業化または多界化と呼ぶべきであろう。業界の事情は千差万別であるから、採用、人事、賃金ももはやその業界なりの水準に適合させていかなければ機動性のある企業運営は不可能である。
 異業種企業とのジョイントこそが企業の活力を生む。勇気を持って大海に乗りだしたいものである。

経済情報の日経、余暇情報の日航
 情報を制する者は世界を制する。
 「経済に関する世界的な総合情報機関」を標榜する日本経済新聞社は、新聞社そのものを情報産業へと改造し、朝毎との競争に打ち克とうとした(「メディアの興亡」より)。そして情報の収集、処理、加工、分析、蓄積、配信、提供を総合化し、国際化する戦略を採用し、今日に至っている。
 ところで情報産業の雄と思われるマスコミの全海外特派員数は、意外に少なく八六三人(一九八四年度、外務省調べ)であり、大手商社の一社の駐在員と大差ない。また商社の情報は商売に絡んだものであり、政治、経済などの動向に極めて敏感である。そこに商社情報の質の高さがある。その商社は、すでに海外支店を通じて得た情報の商品化に取り組んでいる(例、日商岩井)。
 当社の場合は客室乗務員、運行乗務員をはじめ営業関係の出張者を含めると、常時五、〇〇〇人をはるかに越える社員が海外に出ており、また生活者として駐在する社員も多い。このような企業は他には存在しない。その規模において突出した企業であり、このことは莫大な情報資源が埋蔵されているということである。現在、客本で進めている欧州派遣プログラムなどは、十分に活用できるのではないか。企業活動に付随して入手した情報を、吸収、整理、活用する分野は、未開拓の豊かなフロンティアであることを再認識しよう。
 経済の日経に対して余暇、旅行情報の日航を目指したいものである。

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