キャリア開発史

軌跡―私の知的生産―

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 私達は調査については全くのシロウトでしたから、「社会調査入門」という本をテキストにして勉強会を実施しました。テキストの言う通り、一点の妥協も許さずにやりぬこうと決めました。まとめが大変だからと妥協してしまうと、できあがったものが、陳腐なものになってしまうので、安易な妥協はすべきでないと思います。この作業の中で、仮説をつくり、それをデータで検証するという方法を学びました。

 又、会社の友人以外の人達と一緒に、「ヨコの会」という勉強会を結成してみました。アラビア半島の石油産出国、オマーンの研究がその対象です。この経験から学んだことをいくつか並べてみますと、誰も知らない国を自分達が初めて調べるんだということで熱意がわくということですね。ありふれたテーマでは一年間、仲間をひっぱっていくことはできません。また、情報の手づるさえ知れば、ある程度のものはできます。対象にしている国に行かなくても、7〜8割のことはわかります。

 原稿の売り込み方も研究しないと、せっかくやったものが死んでしまいますね。

 次に英国のロンドンに転勤となります。ここでは「ロンドン空港労務事情」という論文をものにしました。A4の社内便せん50枚位の論文です。「なぜ今まで現地従業員の組合が結成されなかったか」という動機から入って、日英の労働組合の比較をやってみました。日本企業の海外進出施策や英国人の労働に対する意識などが理解できたように思います。この頃すでに、「データの裏づけのない空理空論を吐いてはいけない」と思うようになっていましたので、データ調べを徹底して行いました。夜中に、職員の人事記録をひっぱりだし、読みにくい英語をがまんして読んでいきました。どんな職歴をもっているか、どういう学歴を持っているか、どういう成績だったか、入社の目的、退職の理由等を調べました。又、英国人のマネージャーに疑問をぶつけたりしました。普通一般に言われている俗説・通説を正しいかどうかデータでおさえていって、私のいだいている実感と照らしあわせてみるという方法をとってみました。この論文の執筆に1ヶ月半ほどかかりました。このときは海外にいるため、身のまわりに参考になる本が全くないという状態でした。あるのは、日本から送られてくる新聞と中央公論だけでした。そのことがかえって自分の頭で考えることになり、結果としていいものになったようです。

 結論としてわかったことなんですが、日本企業は、海外での経験を生かすシステムをつくっていないんですね。自分の企業の過去の歴史からも、もっと学べるはずです。あるいはアレキサンダー大王の征服政策、英国の植民地政策の経験、アメリカの経験、それらをもっと学ぶべきだと思います。平面的にみるとアメリカ、英国はもちろんのこと、勧告やブラジル、インド、アラブ諸国との比較において日本の組織を研究したものは少ないと思います。私はこういう分野の研究をしてみたいと思うようになりました。梅棹先生の言葉ですが、「価値観の比較を行うのが、人類学である」とすれば、勤労面から価値観の比較を行う分野があっていいはずです。私が今提唱しているのが「人事勤労人類学」というものです。

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